低温物性研究室 卒業研究指導内容
※他大学の方で、上智大学大学院・後藤研究室に進学を希望される方も参考にどうぞ。
研究室名:
低温物性
指導教員: 後藤貴行
(共同研究員:芝浦工業大学工学部準教授 鈴木栄男、大沢明)
卒業研究課題およびその内容:
【後藤研とNMR】
物理学は理論と実験に分かれています。理論による予言を実験で検証し、また、実験で得られた結果を理論的に説明する、
と言う相補的な関係を保ちつつ発展して来ました。後藤研では、NMRとμSRを使った実験的な手法で、低温で現れる新奇な
電子状態を発見し、未来に貢献することを目的としています。NMRもμSRも、ともに、物質の中を直接のぞくプローブであり、
H=A・μ (物質の内部磁場=超微細結合定数×磁気モーメント)
と言う「超微細相互作用」を頼りに、物質内部の電子の状態(μの大きさ、方向、ゆらぎ、不均一性、etc.)を調べます。
NMRの特徴は、三つあります。まず第一は、物質の内部情報を直接見ることが出来ることです。二番目は、複数種の
原子からなる化合物において、それぞれの原子の状態を別々に知ることが出来ることです。これによって、化合物の超伝導体
で、「どの原子が超伝導を引き起こしているか」を知ることが出来ます。三番目は、相転移の前兆を検知できることです。
相転移によって、物質の相(状態)が完全に変わってしまえば、その変化を検知するのは容易ですが、臨界温度(相転移する温度)
が著しく低かったりする場合など、相転移に完全に到達できないことがあります。そのような場合でも、ゆらぎの臨界減速
(臨界温度で、ゆらぎの振幅が増大し、かつ、減速する現象)を、測定することで、たとえば絶対零度の臨界温度を持つような
相転移でも、その前兆を捉えることができます。
一方、μSRの特徴は、まず磁場が不要なことと、また逆に磁場をかけて測定することで、NMRと異なる周波数域の
ゆらぎを捉えることができることです。また、μSRは「素粒子実験」のために、コインシデンス(複数の事象の論理AND)
を取ることで、実験誤差をほぼゼロにすることができ(粒子崩壊確率による統計誤差のみ残る)、測定精度が非常に高い
のが特徴です。また、主な実験施設が海外(スイスや英国)にあるため、外国に行って実験できるのも、学生さんにとって
大きなメリットです。
【後藤研のNMR装置】
後藤研究室には、現在、研究用に3台のNMRスペクトロメータ(NMR装置)があり、それぞれ、
・16T(縦磁場)、12T(縦磁場)、6T(横磁場)
のヘリウムフリー超伝導マグネットが付いています。液体ヘリウム寒剤が一切不要(液体窒素も不要)のため、
一年中、連続で、いつでも実験を行えます。ポスドク(PD)の研究者で出身研究室以外で研究してみたい方も
募集しています。なお、実験は、Windowsのリモートデスクトップ機能で外部から制御できますので、一旦、試料
をセットしてしまえば、自宅から3Heのコンデンスも行い、0.3Kの極低温も実現できます。
試料冷凍機は、今述べたように、0.3Kの3Heソープションポンプ冷凍機が1台と、1.5Kの4He循環冷凍機が2台
あって、これらも全てヘリウムフリーでいつでも稼働しています。単結晶試料測定用の角度制御クライオスタットは、
一軸型が2台、二軸(θ、Φ)が1台あって、いずれも磁場中で結晶方位を精密に制御できます。
なお、これ以上の磁場・温度域(20T超、3He温度以下)での実験が必要な場合は、東北大学金属材料研究所
強磁場センターの共同利用施設にお世話になっています。
以下に、後藤研で、NMRとμSRと言う実験手法を使い、極低温・強磁場下での物性を調べる研究内容のいくつかを
紹介して置きます。
【後藤研の最近の研究テーマ】
いくつかのテーマの中から卒研生自身に選択してもらいます
A)量子スピン磁性体における、乱れによって引き起こされる秩序
物質に不純物(=乱れ)をドープすると、逆に、秩序(反強磁性やスピングラスなど)が、
引き起こされることがあります。これをOrder by Disorderと言います。
そのメカニズムや、どのような秩序が現れるかを探ります。
同じ深さの穴が沢山あったとすると
B)量子スピン磁性体でのボースアインシュタイン凝縮とボースグラスの競合
液体ヘリウム原子はとても軽いため、量子力学で言うゼロ点振動のせいで、 絶対零度
まで凍らず、超流動という、超伝導と良く似た不思議な状態に陥ります。 これはボース
アインシュタイン凝縮という理論で近似的に説明出来ますが、 磁性体の強磁場中での
相転移がまったく同じ理論で説明できるのです。 全然違う二つの系で同じ理論が適用
出来るとはどういうことなのでしょうか?
C)量子計算機への応用を目指した混合原子価ルテニウム金属錯体ダイマー
二つのスピン(=小さな磁石)のペアをダイマーと言います。量子力学を勉強すると、一重項
と三重項という二つの状態があることがわかります。これまで行われて 来た多くの研究は、
磁場や圧力、不純物ドープなどによって、一重項と三重項の間を行き来させて楽しむものでした。
しかし、本研究室では、原子の価数を微調整することで新しい自由度を持ち込み、これによって
「新しい相転移」が起きないか探索を行っています。
D)フラストレーションを含んだ磁性体における量子相転移
正三角形の三つの頂点にそれぞれ小さな磁石(=スピン)を置く時に、 隣のスピンと必ず
逆向きになるようにできるでしょうか? 答えはNoです。そういう風に配置されたスピンは
絶対零度近くまで秩序化出来ません。 では、絶対零度でエントロピーが必ず零になると
いう熱力学の第三法則はどのように満たされるのでしょうか?
E)高温超伝導体におけるインコヒーレント構造が誘起するストライプ秩序
高温超電導体は、CuとOとが作るCuO2面が超伝導化します。この面は完璧な平面ではなく、
低温で、うねうねと折れ曲がることがわかっています。この折れ曲がりがどのような条件
(温度や磁場、物質組成)で起こるのかを調べさらに、超伝導の邪魔をするのか、それとも
実は超伝導を助けているのか、を検証します。
F)有機超伝導体におけるボルテックスの量子融解
超伝導体に強い磁場をかけると、磁束線が超伝導体を貫通し、その断面に「結晶」のような
パターンを形成します。このパターンが本当に結晶化しているのか、それとも液体のように
ゆらゆら動くのかを調べます。ある有機超伝導体では、絶対零度まで冷やしても、結晶化し
ない可能性があり、量子融解と呼ばれています。これは磁束線があたかも実在の物質のよう
に振る舞うようすを研究する面白味と、強磁場・高電流中での安定送電という応用面の二面
性を持った研究です。
物質を冷やして行くと相転移が起こり、超伝導などの奇妙な状態が次々と現れます。後藤研の研究は低温でおこる未知の相転移と電子状態を探すことです。どうやって探すかというと、NMRとμSRという方法を用いて物質の中の電子スピンの状態を直接観測します。英国ラザフォード研究所、スイスPSI研究所、東北大学金属材料研究所など、国内外のよその研究所に出かけて共同研究も行うとともに、学会で発表して貰います。
ゼミ(内容、時間/週、テキスト等):
プレゼミ(数回): 三月末にスタートします。懇親会もあります(懇親会が中心)。
ゼミ(週二回): 量子力学・統計力学の応用である固体物性の基礎を学びます。
希望者は大学院ゼミ(週一回)にも参加します。
雑誌会(夏休み前):
卒研に関係した英語の論文を読んで内容をプレゼンします。
中間発表会(年末): いわゆる忘年会 です。
日本物理学会での発表(年明けの三月): 基本的に全員、発表します。2009年度の物理学会のようす。
定員:原則として4〜6名程度 (大学院は4名)
定員は年によって異なりますので、担任の先生の指示を聞いて下さい。
進路に関するコメント等:
後藤3-335B (電話3238-3356、携帯070-5456-1269)、メール:
gotoo-t@sophia.ac.jp
学生部屋3-337 (内3348) , 実験室3-037
(内4117)
後藤研のウェブサイト http://www.ph.sophia.ac.jp/~goto-ken
(例年の卒研テーマや外国での実験の様子、学会発表などを見て参考にして下さい。試験の過去問・解答も置いてあります)