[ THEME02 ]
ホールキャリアドープ型銅酸化物高温超伝導体の超過剰ドープ領域における強磁性ゆらぎの研究
これまで,ホールキャリア注入(ドープ)型銅酸化物高温超伝導体では,反強磁性モット絶縁体にキャリアをドープして超伝導が発現することから,反強磁性的なスピンのゆらぎが電子対の形成,つまり超伝導の発現メカニズムに効いているとされてきました。近年,ホールキャリアをたくさんドープして超伝導が消失した超過剰ドープ領域において,強磁性秩序とそのゆらぎが存在することが,理論研究[1]とミュオンスピン緩和などの実験研究[2]から提案されました。強磁性ゆらぎは,反強磁性ゆらぎによる超伝導を阻害すると思われます。したがって,物性相図においてキャリアを過剰にドープした領域で超伝導が消失するのは,強磁性ゆらぎの存在が原因かもしれません。
我々の研究グループは,東北大,理化学研究所,高エネルギー加速器研究機構のグループと共同で,強磁性ゆらぎの存在の有無と,銅酸化物における普遍性について研究を進めています。ホールドープ型Bi-2201系銅酸化物の単結晶を作製し,電気抵抗率,磁化,ミュオンスピン緩和などの測定を行った結果,2次元の強磁性ゆらぎが存在する場合に見られる振る舞いを観測することに成功しました[3,4]。より詳しい性質を明らかにするために,ホールドープ量を変えた試料、少量の不純物を置換した試料[5-7]などで研究を進めています。
- A. Kopp, A. Ghosal, S. Chakravarty, “Competing ferromagnetism in high-temperature copper oxide superconductors”, Proc. Natl. Acad. Sci., USA 104, 6123 (2007).
- J. E. Sonier, C. V. Kaiser, V. Pacradouni, S. A. Sabok-Sayr, C. Cochrane, D. E. MacLaughlin, S. Komiya, N. E. Hussey, “Direct search for a ferromagnetic phase in a heavily overdoped nonsuperconducting copper oxide”, Proc. Natl. Acad. Sci., USA 107, 17131 (2010).
- K. Kurashima, T. Adachi, K. M. Suzuki, Y. Fukunaga, T. Kawamata, T. Noji, Y. Koike,“Possible ferromagnetic phase in non-superconducting heavily overdoped cuprates of Bi-2201”, J. Phys.: Conf. Ser. 568, 022003 (2014).
- K. Kurashima, T. Adachi, K. M. Suzuki, Y. Fukunaga, T. Kawamata, T. Noji, H. Miyasaka, I. Watanabe, M. Miyazaki, A. Koda,R. Kadono, Y. Koike,“Development of ferromagnetic fluctuations in heavily overdoped (Bi,Pb)2Sr2CuO6+δ copper oxides”, Phys. Rev. Lett. 121, 057002 (2018). (Press Release)
- 大西柊成, 川端公貴, 渡邊功雄, 桑原英樹, 倉嶋晃士, 川股隆行, 小池洋二, 足立匡,“Bi-2201系銅酸化物の超過剰ドープ領域における強磁性ゆらぎに対する不純物置換効果”, 日本物理学会第73回年次大会, 22aK404-1, 2018年3月22-25日, 東京理科大学(野田市).
- 小宮山陽太, 大西柊成, 原田真由子, 桑原英樹, 黒江晴彦, 倉嶋晃士, 川股隆行, 小池洋二, 足立匡,“Bi-2201系銅酸化物の超過剰ドープ領域における強磁性ゆらぎに対する磁性不純物の効果”, 日本物理学会2020年秋季大会, 8aH1-07, 2020年9月8-11日, オンライン.
- Y. Komiyama, S. Onishi, M. Harada, H. Kuwahara, H. Kuroe, K. Kurashima, T. Kawamata, Y. Koike, I. Watanabe, T. Adachi,“Magnetic-impurity effects on ferromagnetic fluctuations in heavily overdpped (Bi,Pb)2Sr2Cu1-yFeyO6+δ cuprates”, J. Phys. Soc. Jpn. 90, 084701 (2021).