第二回(4/20)のコメント「変分法について」                  <<<戻る

コメント数の多かった順番に記すと、

1.     変分法はどういう場合に使えば良いのかわからない

2.     極値(停留値)を求めるのに、なぜ変数をずらしてみるのか

3.     途中の計算が難しすぎる

4.     束縛条件とは何であるかがそもそもわからない

5.     変分法と未定乗数法の関係がわからない

6.     板書を間違えないようにして欲しい

7.     coshが何かわからない

8.     ラグランジアンの中のqq'は時間変化するものなのだから、ラグランジアンは時間を変数として含んでいるのではないか。それをqq'で偏微分したり、あるいは時間が一様だからLは時間を含まないはず、と云う意味がわからない。

などでした(他にもいくつかありました)。回答は以下の通りです。


A1)変分法はどういう場合に使われるか

 一般に「○×するような関数を求めよ」という場合に使います。有名な問題としては、

などがあります。もっと具体的に云うと、「積分の極値を求める」場合に使います。力学の問題に限った話ではなく、量子力学で超伝導の問題を研究する場合にも使われました。変分法は、微分のように単に値を求めるのではなく、関数そのものが求まってしまうと云う大変強力なテクニックです。

最後の等周問題について計算を示して置きますが、計算自体はちょっと複雑です。


A2) 関数の極値(停留値)を求めるのに、なぜ変数をずらしてみるのか

  「微分してゼロ」とまったく同じことです。物理学ではこういう云い方をする
のです。慣れることが必要です。
関数をテイラー展開してみると意味が一目瞭然になります。

   
    (変分法の場合は積分した結果F[f(x)]について、f(x)f(x)+δf(x)とずらします)

ですが、dxが非常に小さい場合は、(dx)^2の項を無視できて

となります。

すると、x0を定数と思うと、

となり、これは勾配bの直線ですから極値ではありません。これに対し、
もし、
b=f'(x0)が完全にゼロならば、(dx)^2の項が効いてきて、

となり、これはx0を底とする放物線ですから、確かに極値です。


 A3) 途中の計算が難しすぎる

ポイントは、変分そのものの取り方と、部分積分のところでしょう。
二点間を最短距離で結ぶ曲線の問題について少し詳しく記すと、

--------------------
変分の取り方

束縛条件はありませんから、距離 を最小にするだけです。
変分の定義は、

              δS=S[f+δf]-S[f]
ですから、計算方法は微分(テイラー展開)と全く同じで、

              δS=S'[f]·δf

        =∫dx·f'(x)·δf'(x)/(1+f'(x)^2)

これが任意のδfについてゼロになれば良いというわけです。
(但し、δfは積分範囲の任意のxについて非常に小さく、かつ、

 積分の始点と終点ではゼロという条件が付いています)

--------------------
部分積分

ところが、積分の中身に入っているのはδf'であり、δfでは
ありません。たとえδfが任意でも、δf'がどうであるかはわ
からないので部分積分でδf'を消去します。

(この問題は簡単なので、積分の中にδf'しか出てきませんが、
もっと複雑な問題では、δfδf'の両方が出てくるので消去
が必ず必要になります。
さて、部分積分の定義は、積分区間をx1~x2とすると、

              ∫dx·g(x)h(x)={G(x2)h(x2)-G(x1)h(x1)}-∫dx·G(x)h'(x)

                            但し、G(x)=∫dx·g(x)

ですから、前項の式で、

              g(x)≡ δf'(x)

      h(x)≡ f'(x)/(1+f'(x)^2)

とおいて適用すれば、


A4) 束縛条件とは何か

 変数に対する条件です。変数が勝手な値を取れるのではなく、
条件がついている
ということです。簡単な例を挙げておくと、

二変数の束縛条件の例: x^2+y^2=1 ── 原点を中心とした半径1の円。

 ⇒束縛条件がないとは:(x,y)はそれぞれ任意の値をとることがでる。

 ⇒束縛条件が付くとは:上式を満たす(x,y)の値のみが許される。


A5) 変分法と未定乗数法の関係?

  どちらも物理学で良く使われる数学的テクニックですが、両者の間には
何の関係もありません。ただ、同時に使用される場合もあります。

同様に、オイラー・ラグランジュの運動方程式と、ラグランジュの未定乗数法
も全く無関係です。


A6) 板書のミスがあると困る

  言い訳めいていると云われるかもしれませんが、講義の間違いを探して
指摘することとは、講義のより深い理解につながります。大学の講義は
知識や技術ではなく、「理解」を伝えることが目的です。


A7) coshがわからない

  coshは、hyperbolic-cosineの略で、定義は、cosh(x)=(exp(x)+exp(-x))/2
です。なお、実数の
xに対しては常に実数の値をとります。


A8)ラグランジアンの中のqq'は時間変化するものなのだから、
ラグランジアンは時間を変数として含んでいるのではないか。

  きわめて重要で大変良い質問です。各時間における瞬間の運動は、qq'の両方を指定すればその運動が完全に決まる(加速度q"は不要)、というのが議論の出発点です。よって、ラグランジアンを記述する際にも、qq'の両方を別物として扱います。それぞれを時間の関数と「思っては」いけないのです(もちろん実際はどちらも時間変化するのですが)。この二つを指定することで、その瞬間の運動が決まると思わなければなりません。

  特に、念を押しておくと、時間の項も、それが座標qや速さq'で決まるものではなく、完全に「外からの影響」で決まる場合のみに取り入れます。これを、「時間依存の項をあらわに含む」とか、「時間に陽に依存する」などと言います。例えば、外力が働く場合がこれにあたります。

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