数理物理及び演習V Q&A (2000年度)     T.Goto email: gotoo-t@sophia.ac.jp

注)等幅フォント(MS明朝、MSゴシックなど)で見てください。
プロポーショナルフォント(MS P明朝、MS Pゴシックなど)では数式が乱れると思います。      <戻る>


0. 基本的なこと

Q0-1) Subject: 質問
Date: Thu, 1 Jun 2000 00:04:10 +0900

講義と直接関係ないのですが量子力学で使うブラ・ケットベクトルを使う意味が分かりません。ふつうのベクトル表示で不都合があるのですか?
あと、(|A>)t=<A|なのですか?アスタリスクだとどう違うのですか?

A0-1) Date: Fri, 2 Jun 2000 10:11:01 +0900 (JST)
Subject: Re: 質問
後藤@数物演習担当です。
基本的な問題で、こういうことをしっかり抑えておくことも重要です。

1)ブラケットはDiracによって「発明」された記号で、美しく、わかりやすくて便利なので今日まで使われています。ブラとケットを合わせたときには自動的に積分を取る、という約束も、見た目でわかりやすく現されています。もし、ブラケットを使わないと、積分記号をいちいち書かないといけないし、その積分も、電子の軌道運動を表わす波動関数では普通の積分ですが、スピン状態を表わす波動関数では和になりますから、区別して書かなければならず、「統一的な見方」が出来なくなります。
(区別した方が良いのではないか、と一瞬思われるかもしれませんが、一見異なるものを「統一した見方」でとらえると、理解が進みます)。

2) ふつうのベクトルとは、矢印が頭に付いた変数や太字の変数のことを言っているのでしょうか。これらのベクトルは、通常、三次元の座標空間ベクトルを表わします。
ブラケットは、「波動関数のベクトル空間」の中のベクトルなので、区別しているわけです。波動関数ですから、あくまでスカラー変数で、一つの変数です。座標空間内のベクトルとは全くことなります。波動関数がベクトルであるというのは、基底関数で展開したときの係数を成分とするようなベクトルである、ということです。ここで展開とは、=テイラー展開、フーリエ展開、あるいは、調和振動子の固有関数|n>で展開、これから習う球面調和関数で展開、と様様です。
ベクトルの次元は固有関数の個数できまりますから、多くの場合、無限次元となりますし、もし、固有値が連続的であれば(たとえば自由粒子のエネルギーp2/2mは連続的です)、成分も連続的な実数となってしまいます。つまりAiの成分を表す添字iが整数ではなく実数になってしまうということです。

3) ブラは、<A|=Σc_n <n|=(c_0,c_1,c_2,c_3,c_4,c_5,......) というのが定義(横ベクトル)ですから、
<A|^t = (c_0,c_1,c_2,c_3,c_4,c_5.....)^t は縦ベクトルです。ダガー†は、共役を表わしますが、共役≡複素共役+転置ですから、|A>†=(c_0^*,c_1^*,c_2^*,c_3^*,c_4^*,c_5^*......)^t=<A|
となります。
なお、アスタリスク*は、複素共役のみを表わします。

注:"_"は下付き, "^"は上付き
後藤


Q0-2) Date: Thu, 1 Jun 2000 15:58:31 +0900 (JST)
Subject: すいません、質問遅れました。

こんにちは。

水曜日の7,8限に数理物理演習Vの授業を受けている者です。
昨日までに質問を出さなくてはいけなかったのですがどうしても送ることができず今日になってしまいました。それではぶしつけですが質問させて頂きます。

「量子力学はあらゆる分野で使われているとは言いますが宇宙に関することや原子レベルの実験などなら分かるんですけど他にどういう使い方をするのでしょうか?」

「極座標への変換をよくやりますが座標変換は特にどんな場合に必要なのかとその目的を教えてください」
それではよろしくお願いします。

A0-2) Date: Thu, 1 Jun 2000 18:55:03 +0900 (JST)
Subject: Re: すいません、質問遅れました。
後藤@数物演習担当です。

1) 宇宙に関することは、一部を除いて量子力学はあまり使われていないと思います。なぜなら、「星」は巨大で、量子論が必要ないからです。宇宙論で量子力学が必要なのは、星の内部の構造がどうなっているか、(中性子星など)という話の場合です。

2) 他の分野での量子力学の適用例は、固体(金属や、半導体、絶縁体、超伝導体、磁性体etc.)の中で電子や原子核がどういう風に運動しているかを調べるために使われています。どうして、強磁性になるのか、どうして超伝導がおこるのか、から、どうして金属は電気を流して半導体や絶縁体は流しにくいのか、という問題まで、量子力学の守備範囲です。
なお、半導体デバイスの隆盛は量子力学のおかげと言っても過言ではありません。
それから、固体内で、原子核が、つりあい位置を中心にして、どういう風に振動しているか、それが比熱や電気抵抗にどう影響しているか、などをを調べるには、今回やった調和振動子の話を適用します (それと統計力学の知識が必要です)。

3) 座標変換は、問題を解くため、あるいは問題の見通しを良くするために行います。回転に関する問題であれば、どの場合にどの変換を行うか、という一般論はありません。いかに、うまい変換を見つけるか、が物理道だと思ってください。

後藤


Q0-3) Date: Wed, 31 May 2000 17:32:40 +0900 (JST)
Subject: 数理物理演習V:質問

規格化条件の式 ∫|Φ|^2dr について、電子は空間のどっかにあるはずだから、全空間で積分すれば1になるけど、自由電子の波動関数だと、|Φ|^2=1となって、全空間で積分すると発散しちゃうようで、このためにある限られた空間で積分して無理矢理規格化因子をきめてるみたいなんですが、これは空間のどっかに電子が存在するという確立の考えにのっとってないように思われます。そもそも全空間で積分しても1にならないってのが納得いかないです。だって空間のどっかに電子はあるはずじゃん!!非常に初歩的なところを理解してないのかもしれないので、つまらない質問かもしれません。

A0-3) Date: Wed, 31 May 2000 18:49:03 +0900 (JST)
Subject: Re: 数理物理演習V:質問

後藤@数物演習担当です。
非常に基本的で大事な質問です。
量子力学の入門のところで出てくる箱型ポテンシャルにおける自由電子の波動関数exp(ikx)の規格化積分は、無理矢理規格化因子を決めたのではなく、その箱の中に電子を閉じ込めている(実際の箱や、電場ポテンシャルによる閉じ込め)ので、積分範囲を限定しているのです。

そのような閉じ込めを行わない自由電子の波動関数の規格化については、規格化の定義が全く異なります。どういう風に定義するかと言うと、自由電子を初め、エネルギーの固有値が連続的(今の場合は、k^2が任意の値を取れるということ)である場合の波動関数の規格化については、「規格化積分がデルタ関数になる」、つまり、∫|φ|2dx=δ(x) (積分範囲は全空間)という条件で決めることになっています。これは約束事です。適当に境界条件を定めてしまっているのではありません。(ランダウ、量子力学I, p17)

それでは自由粒子の波動関数はどうなるんだ、全空間で積分したら発散してしまうのではないか、と思われるかもしれませんが、「本当」の自由粒子は波として全空間に広がってしまっていますから、規格化因子が非常に小さい極限となっているのです。

後藤  


Q0-4) Date: Wed 19 June 2000 (not mail)

ブラケットで<φ|A|ψ>の定義や意味はわかるのですが、<r|φ>=φ(r)という式の意味が全く理解できません。

A0-4) Date: Wed 19 June 2000 (not mail)

ここで <r| というのは、「粒子位置が座標rに確定している状態」を表わしています。つまり、このrは関数の引数ではないのです。φ(r)におけるrとは全く意味が違います。普通の関数の書き方では、

<r|=<r|(x)=δ(x-r)

となるでしょう。真中の項は、ブラの引数が座標変数xであることをしっかり表わすために書いたのですが、こういう書き方はあまりしないかもしれません。

右の項のデルタ関数は、座標位置がrに確定している状態を表わしています。xがrの値を取るときだけ、大きな値(発散)を取り、それ以外は完全にゼロである、というわけです。

後藤